しかし、のんさんは2016年のアニメ映画「この世界の片隅に」で主人公・すずの声を担い、「第38回ヨコハマ映画祭 審査員特別賞」などを受賞。さらに、2020年の映画「私をくいとめて」では「第30回日本映画批評家大賞 主演女優賞」、2022年の映画「さかなのこ」では「第46回日本アカデミー賞 優秀主演女優賞」などを受賞しました。
能年玲奈のころに数々の新人賞に輝いていたことも含め、演技力や俳優としての可能性に疑いの余地はなく、つねにCM出演していることから世間の需要や好感度があることは間違いないでしょう。しかし、所属事務所とのトラブルが報じられて独立したあとは、「たびたび待望論が沸き上がっても、テレビ出演は一向に増えていかない」という状態が続いています…
これはジャニーズ事務所とテレビ局の関係性と同じように、元所属事務所と業界商習慣としての圧力やテレビ局の忖度によるものではないのか、という疑問が湧き上がります。
もし当時、能年玲奈さんと所属事務所にトラブルがあったとしても、仮に能年玲奈さんに何らかの非があったとしても、これほどの長期にわたって出演がないのは異様に見えます。また、「CMには出演させるのに番組には出演させない」というテレビ局の対応には整合性がなく、不自然と言われても仕方がないでしょう…
2019年7月、公正取引委員会がジャニーズ事務所に対し、「テレビ局に元SMAPの3人を出演させないように働きかけた場合、独占禁止法違反になる恐れがあることを注意した」というニュースを覚えている人は多いのではないでしょうか。
その当時、のんさんのマネジメントに携わる株式会社スピーディの福田淳代表が、ドラマ出演のオファーは多数あるが、話が進む中でテレビ局の上層部に取り消されてしまうなどの苦境を明かしました。さらに、「のんが3年間テレビ局で1つのドラマにも出演がかなわないことは、あまりにも異常」「このような古い体質を変えていかなければなりません」などと訴えかけましたが、一部で報じられたのみで終了。テレビ局の対応はほとんど変わらないまま現在に至っています…
公正取引委員会によるジャニーズ事務所への注意があった後でも、「ドラマ出演のオファーが取り消される」という告白があっても、なぜのんさんを取り巻く状況は変わらなかったのか。「結局、テレビ局は大手芸能事務所に忖度しているからだろう」「元SMAPの3人は少しずつ出演するようになったのは公取委に注意されたからで、干されたほかの人は変わらない」と捉えるしかないような状況が続いているのです。
しかも多くのテレビ局がある中、どこか1つくらいは出演させる局があってもおかしくないのに、示し合わせたかのような横並びの対応に終始。どのテレビ局も「のんは使えない」「まだやめておこう」というスタンスのまま時間だけが過ぎていき、彼女は今年7月13日の誕生日で30歳になりました…
個人活動を制限し、新規参入を阻むような芸能事務所からの圧力を疑われながらも、テレビ局はそれを受け入れてしまう。
このような長年にわたる商慣習によって正当な競争が行われないことで、日本のエンターテインメント業界の技術的なレベルアップが望みづらくなっていた感は否めません。今後も実力や全体のニーズより、一部の芸能事務所やファンを優先させるような状態が続けば、ネットの浸透で始まった世界での競争で生き残っていくことは難しいのではないでしょうか。
時代は昭和から平成、令和と変わり、これまで圧力と忖度を行ってきたと疑われているテレビ局のトップも、芸能事務所のトップも高齢になり、かつてほどの影響力を発揮しづらい状況に変わりつつあるようです。
それでもテレビ局と芸能事務所は、これまでと同じことを繰り返していくのか。また、公正取引委員会はほかの芸能事務所に対しても調査を進め、なかなか「排除措置命令」や「警告」までは至らなくても、ジャニーズ事務所と同レベルの「注意処分」くらいはできないのか…
より質が高く、より多くの人々を楽しませられるエンターテインメントを作っていくためには、芸能人がこれまでよりも自由に移籍でき、テレビ局が自由にキャスティングできるほうがいいでしょう。
しかし、のんさんのほかにも、実力と人気がありながら、突然テレビ出演がなくなり、「干された」と言われる芸能人は少なくありません。令和の今も昭和から続く芸能界特有の商慣習を踏襲しなければいけないのであれば、やはり時代錯誤な感は否めないのです…