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 はじめて資生堂パーラーのいちじくのパフェを食べたのは数年前、銀座本店でのことだ。
たしか日曜日で、おもいっきり仕事帰りの格好、そしておひとり様は私だけだった。
ワイン色を基調にした、落ち着きと高級感のある店内。裾の長いクロスがかけられたテーブルに案内され、ウェイトレスが椅子を引いてくれる。

なんかひとりだけ浮いているよなあ……と気もそぞろだったが、いちじくのパフェが運ばれてくるともう何も気にならなくなる。美しい。とにかく美しいパフェなのだ。
繊細なレースのコースターのうえに、おすましして鎮座している。

頂上のいちじくを、柄の長いフォークで口に運んで驚く。とにかく香りがいい。桃やメロンのような実の甘みは少ないが、ふんわりと品のいいかおりに包まれる。
グラスに盛られたジェラートやジュレも、いちじくの引き立て役でありながらひとつひとつに丁寧な意匠が感じられ、余すことなくすべてが美味しい。
こちらも真面目にこのパフェに向き合いたいという気分にさせられ、グラスの底にたどり着くのが惜しくなる。

この体験はよく記憶に残っている。物腰のやわらかい老執事のようなおじさまウェイターに送り出され、銀座の目抜き通りをるんるん歩いて帰路についた。

資生堂パーラーのパフェをいただくと、気持ちが華やかになり、背筋が伸びるのだ。まるで背の高いパフェグラスのように。

先日もラゾーナ川崎店へ赴いた。本店にくらべればカジュアルだが、青と白を基調にしたアールデコ風(なのか?)の店内はエレガントかつかわいらしい。

注文したのは、もちろんいちじくのパフェ。
ミルクジェラートの味わいが印象的だった。舌に乗っているあいだは濃厚な甘さがあるのだが、飲み込めばさらっと立ち消える。しつこくない。
ローズマリーといちじくが合うのは、あたらしい発見だった。爽やかかつスパイシーなローズマリーと、優しく甘いいちじくが重なると、良家のお嬢様御用達のオードトワレの香りがただよう。良家のお嬢様御用達のオードトワレなど嗅いだことはないのだが。

つづいて焼き菓子やピスタチオのアイス、ミルクプリン、いちじくのジュレなどが顔を出すので楽しい。さすが資生堂パーラー、果物のポテンシャルを引き出す方法を熟知している。そしてパフェという料理の起承転結が上手い。何かを起こし続けながら、しっかり緩急をつけるこの手腕……ぜひ私も見習いたい。
やはり、この日も背筋を伸ばして帰るのだった。