Oddbean new post about | logout
  H.アレント(1906生)、激動の20世紀の思想家の中でも、最も独創的な人ではある。独創性、という意味では、同じくハイデガーに影響を受けたデリダよりも上、だと私は考えている。

 ただ、実はデリダに関してはハイデガーよりもサルトルの影響の方が圧倒的であり、哲学としての精密性という点では勿論比較にならない。

 とは言え、アレントは着眼点は「天才的」だが、結論には私はすべて「反対」である。

 例えば、アレントは米国の公民権運動の際、連邦政府の介入を批判。これはアレント的な自治政治空間の侵害、となるからだが、この主張で行くと、黒人は永遠に「解放」されないことになる。

 また彼女は「政治」と「社会」の峻別を強調、「福祉国家」を「社会」による「政治」の解体、とみる。勿論「政治」と「社会」の概念的区別が18世紀にせり上がってきた、との指摘は重要であり、アレントも「社会」=「生」の必要性は認めているのだけれども。

 しかし一番アレント派に見落とされているのは『全体主義の起源』の悪影響だろう。
 この本が出版された1951年は「レッド・パージ」の最中でソ連(スターリン主義)をナチスと並べる見立ては、瞬く間に、メディア、政治学者に流用されていく。

 この「全体主義」概念、冷戦時代、米国に大変都合がよかった。